A happy new year ~カカオ特別編~

 

「はぁ……やっぱりおそばはおいしいなぁ――。ね?そうちゃん」

「お前はなんだっておいしいって言うだろうが……瑞希」

「なにそれ……、まるで私が何だって食べる食欲魔人みたいじゃないかっ!」

「――ちがうのか?」

「なんですって!?」

 そんな会話をしながら、二人の少年が食卓を囲んでいる。少年のうちの一人は鼎 瑞希、顔も声も名前も、その全てが女の子(しかもとびっきり可愛い)のような少年である。そしてもう一人が浅葉 宗介、瑞希の幼馴染で瑞希のよき理解者でもある少年だ。もう今年一年も残すところあと一時間といったころ、二人は例年通り瑞希の家に集まり年越しそばを食べていた。

「まぁ……今年もいろいろあったな――」

「ほんとだねぇ……」

 残り一時間足らずになった今年一年を、二人はゆっくりと振り返ってみる。

「……なんかいやなことばっかり思い出すんですけど」

「……安心しろ、俺もだ」

 ――思い出なんて、嫌な事ほど心に残るんですよね……

「……まぁ、今年も一年無事に終わってよかったよかった」

「なんていうか……そうちゃんセリフが年寄りっぽいよ」

「うーるさいわ」

 そう言って、宗介はまっすぐに瑞希の顔を見つめた。それに対し、瑞希の方は顔を耳まで赤らめてしまう。

「な…なに?」

「いや……ほんとに去年も思ったが、今年一年瑞希が無事に一年を終えれたことが俺にとっては幸せだなぁと思ってな」

「ほぇぇ……」

 まるでプロポーズのような言葉をまじめな顔をして言う宗介に、瑞希は顔をさらに赤らめる。

「なんていうか――」

「うぅ……?」

「あれだけやっててよく死なないよなって思う」

「ハ…ハイ…?」

「だってな…たとえば――」

などといいながら、宗介は今年あった瑞希の失敗や恥ずかしい事件、さらには死にそうになってしまった事を次々をしゃべっていく。それに対し瑞希の方は、顔お真っ赤にしながら「あぅあぅ」と喘いでいる。次々に自分にとって恥ずかしいことを言われ、瑞希は次第に先ほど感じたドキドキした思いを後悔し始めてしまった。

「ヴァァアア、うるさーい」

「おぉ?!」

 延々と続く宗介の言葉に、ついに瑞希は逆切れしてしまった。

「なにさ……なにさもう……」

「……ぅ」

 自分のことだが、それでも言われると恥ずかしくどんどん気分はブルーになっていく。いつしか自分でも気づかないうちに瞳から涙がボロボロと流れ始めていた。

「なにさ……そうちゃん……そうちゃんはそんなに私がいじめたいの……?」

「いや……その――」

 涙を流しだした瑞希に、宗介は口ごもってしまった。

「ばか……ばかぁ……」

 嗚咽のような叫びを口の中で叫びながら、瑞希はその場にうずくまってしまった。

「……ごめん」

 その姿に、宗介はただ立ち尽くすことしかできないでいた。そのとき――

 

 ボーン、ボーン、ボーン

 壁にかけられた時計が、12時になったことを音をもって告げた。

 

 

 

「年……あけたな」

「……」

「涙で……年明けさせちゃったな……」

「……」

 宗介の言葉に、まるで耳を貸さないかのように瑞希は、その場で黙り込んでいた。そんな瑞希に、宗介はどうすればいいのかわからなくなってしまった。今まで何度かしかないが、瑞希が自分のせいで泣き出してしまったときの対処はいつも困ってしまう。ほかのことで何かあったときはゆっくりと時間をかけて瑞希をなぐさめられるが、自分のせいで泣かしてしまったときは何をどうしてやればいいのか、まったくわからないのだ。それは、自分自身も泣かしてしまったという罪悪感にさいなまれ、何も考える事ができなくなってしまっているせいかもしれない。

「その……なんだ、すまない――」

 口から出てくる言葉は、謝罪の言葉だけだった……。さらに嗚咽の声を上げる瑞希に、宗介はどうすることもできずただただその姿をみつめていた……

「…瑞希」

「…なによ」

 呼び続けた少年は、ようやく自分の言葉に反応をしてくれた。それを確認してから、宗介は瑞希の体をそっと、できるかぎりやさしく抱き寄せた。

「その……ごめん」

「……」

「なんていうか……恥ずかしくってさ」

 自然と口から言葉が出た。抱き寄せた瑞希の体は、思った以上に小さく少し力を入れたら壊れてしまいそうだった。ゆっくりとその髪をなでる。先ほどまでカタカタと震えていた瑞希の体は、次第に力を抜かれていき、完全に宗介に体を預ける形になった。

「泣くなとか……いえるほど俺は偉くないし、お前が泣きたいのを我慢する必要はない」

「……」

「泣いてくれればいい……俺が支えるから」

 その言葉に、瑞希の体がピクリと動いた。宗介は、「自分で泣かせておいて…」と心の中で自分の毒づいてから、もう一度瑞希の髪を優しくなでた。

「この一年……約束する。俺が絶対お前を支えて見せるから――」

「そうちゃんが……私を?」

「あぁ、そうして次の大晦日。またこうしてお前に約束するよ……、支えるって」

 そういって微笑む宗介に、瑞希もまた微笑んだ。

 

 

 

 いつか語られる物語……

 その中で失われていくもの……

 それは、あまりにも重い力で少年と少女を苦しめる……

 

 けれど少年も少女も……

 また再び前に向かって歩き出していくのです……

 

 ふりかえらずに……

 その過去を背負って……

 

 

皆様の新たなる一年が幸多からんことを……

それではよいお年を♪


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